「希少糖秘話」@2003年2月16日
まえがき
希少糖に関する研究を細々と30年以上も続けてきた中で、私が興味深いと思ったことを中心に「希少糖秘話」として自由に書かせていただくことにする。順不同に私の希少糖研究の流れなどを中心に、「個人的な内容」となることをお許し願いたい。希少糖研究の役に立つかどうかは別として、一息入れてもらう時にお読みくださればと思う。このような機会でもないと執筆することもない内容なので、機会を作ってくださった、国際希少糖学会の編集委員の皆様、特に香川大学農学部の深田先生に感謝したします。香川大学希少糖研究センター 何森 健
第一話 単糖は嫌われ者
「糖質の化学」井上康男著(培風館昭和51年)の序文に以下のように書かれている。「・・生化学の講義では蛋白質(酵素)や核酸の化学が、生物学的機能との関連において情熱的に語られるのに対し、糖類はエネルギー源としての側面をのぞいては省略されてしまうか、それに近いのが大学の教育での実情であろう。・・・」井上氏はまた「糖化学の基礎的な事項は、有機化学の中の立体化学の講義で扱われ、そこで学生は個々の単糖の名前と構造の丸暗記を強いられる結果、ほとんど間違いなく糖質に対して悪い印象をもつことになる。」とも書かれている。私と単糖との出会いもまさにこの序文にあるようであった。この状況は今も変わっていないように思う。単糖は多くの機能性生体成分と比較して「特徴的な機能も無く構造ばかりが複雑で嫌われる物質」というイメージが定着しているのが現状である。
私と単糖との出会いは、構造のα、β、ピラノース、フラノース、椅子型、船型、アクシャル、エクアトリアル・・と無味乾燥な構造の暗記で終始して終わった。ついで、非常に魅力的な性質を持つ、アミノ酸、蛋白質、核酸と来て、最後の頃には単糖など記憶に遠くなってしまったと記憶している
唯一、私の学生時代(香川大学農学部学部2年生)の頃の単糖に関する思い出として残っているのは「・・ガロンタンク」である。これは、単糖の構造を記憶する方法であり意味のない言葉遊びである。当時購入した本を探してようやく見つけたので、その部分の記述を構造式とともに下に示すこととする。
この図はコーンスタンプの「生化学」の教科書の単糖の構造解説図である。構造式の下に記述したのが、私が唯一印象に残っている「・・ガロンタンク」である。よく見ていただかないと理解できないかもしれないが、Advanced organic chemistry (Fisher & Fisher 1961 ) には、All Altruists Gladly Make Gum In Gallon Tanks と単糖の構造を覚えなさいと書いてある。この文章は覚える価値もないものであるが、私の単糖との出会いとして印象に残っている唯一の記憶である。「いい国作ろう鎌倉幕府」のたぐいであり、一生懸命暗記をしようとした記憶はないが、「・・ガロンタンク」として残っていた。今改めて見ているとフィッシャー氏が、何とか単糖に興味をもってもらおうという努力されたのではないかと考えさせられる。現に私の印象に残っているのだから・・・。
この「希少糖秘話」は、私が希少糖という「単糖」に魅せられて何十年も続けて来たという「涙の秘話」ではないことはこの最初の単糖との出会いでもご理解いただけると思う。私も井上氏が書かれているように「単糖を嫌った」一人だった。単糖はやはり今でも「嫌われ者」としての厳然とした地位を誇っている。希少糖研究は、それを根底から打破すべき「挑戦的研究」である。
